路頭に迷う相場師を救うニート
INTRODUCTION
◯月×日
雨が降り続く東京・新宿の街で
厳戒態勢の中、相場を揺るがしかねない危険な会合が、
今宵行われようとしていた・・・
5日前・・・
土屋は悩んでいた。
六本木ヒルズに住む土屋は会社経営者。
絵に描いたような成金だ。
当然周りにも成金仲間が集まる。
ただここ最近、周囲の成金が投資に失敗して一瞬にして大金を失っていく、そんな光景を何度も目の当たりにし、悩んでいた。
「おれに何かできることは無いやろか。」そして・・・
ある日、土屋は気づいた。
「もしかしたら、あの男なら救えるかもしれん。
いや、あの男が救えへんのやったら、もはや他に手段は存在せんやろ。」土屋の頭に浮かんだその男の名は、
下山敬三。下山は、業界ではすでに名の知れた相場師だ。
土屋と下山とは何年も前から知り合いだったが、それほど近い関係ではなく下山がどんな手法で稼ぎ出しているのか詳しく聞いたことはなかった。
土屋はすぐに、下山と会う約束を取り付けた。
しかし下山の情報は秘匿性が高く、それに群がる輩はいつも絶えない。
そこで、下山の身を完全にガードするために土屋はボディガードを6名雇った。
そして約束の当日、下山の自宅にボディガードを送った。
当日・・・
17時、下山の部屋にチャイムが鳴り響く。
下山にとって最悪のタイミングだった。
オートロックを解錠し、そして玄関の扉を開ける。
たったそれだけのことが、下山にとってこの上なく面倒で邪魔な作業だった。
ハーフパンツにTシャツ姿、おそらくまだ眠りから覚めて間もないであろう下山は、玄関の鍵を開けた瞬間に部屋の奥へと消えた。
そして部屋の奥から下山の声が響く。
下山にとって何よりも大切な時間。
それはトレードの時間でもなく、ご飯を食べる時間でもなく、オンラインゲームをする時間だった。
まるでニートのような生活を送っていた。
しかしボディガードは知っていた。
下山がこれまで、どれだけのトレーダーを救ってきたのか。
そして下山自身がどれだけの利益をあげ続けているのか。
下山の機嫌を損ねることは絶対に許されない。
10分後・・・
ようやくオンラインゲームの対戦が終わったようだ。
どうやら負けてしまったようだが、ボディガードは間髪入れずに言う。
ボディガードは諦めた。
何を言っても無駄だ、下山様が気が済むまで待とうと。
黒いスーツに身を包む6名のボディーガードが見守る中、寝起きの男が腕立て伏せをしている、というなんとも異様な光景がその部屋に広がっていた。
そしてボディガードが到着してから30分後・・・
ようやく、下山の住む超高級タワーマンションを後にする。
目的の場所まで、普通なら車で10分かからない。
しかし、できる限り人目につかない道を選ぶため、到着まで30分はかかる。
下山はどこから狙われるか分からない。
任務中は一切無駄な言葉を発しないはずの運転手のボディーガードが思わずつぶやく。
車内に静寂の時間が流れる。
そして43分後、無事到着。
下山が、とある雑居ビルの1部屋に通される。
あえて誰も近づかないような汚いビルを選んだのは土屋の判断だった。
厳重に施錠された部屋の重い扉を開けた向こうに、満面の笑みを浮かべ立っている男がいた。
下山は悟った。
土屋には何を言っても無駄だということを。
土屋に投資手法を教える運命から逃れられないということを。
そして覚悟を決めて話すことにした。
土屋の声が雑居ビルの一室に響き渡る。
話を受け入れようとしない土屋に対して下山は、鋭く核心をついた質問を切り返す。
今度は下山の声が雑居ビルの一室に響き渡る。
土屋は思わずニヤついた。
「下山の手法は、やはり本物なのではないか。」勢い良く、まくしたてる下山を見ていてそんな気がしてきた。
ただ、それでも土屋は簡単に人を信じない。
人を簡単に信じて何度裏切られてきたことか分からない。
それに脳内の第六感は、未だ土屋に警告を発し続けていた。
「シモヤマヲ、シンジルナ」と。
「ファンダメンタルズ分析も、テクニカル分析も、そしてロスカットさえもせずに利益を獲得できる」
と非常識な主張をする下山に土屋は徹底的に噛み付き、2人の間には険悪な雰囲気が漂い始めていた・・・。
ついに明かされ始めた下山の手法。
しかし、それはあまりにも
常軌を逸した手法であった。
果たして本当にファンダメンタルズ分析も、テクニカル分析も、そしてロスカットさえもせず、1日5分以内のトレードで安定的に利益を獲得することは可能なのか?
株トレードの常識であるロスカットはなぜ必要無いと言い切れるのか?
次回、湧き溢れる土屋の疑問を、下山が徹底的に解説し、土屋を論破する!!