『悔しい』

その感情は土屋にとって、ある意味とても大切な感情だった。

なぜなら、その感情があることで、強烈な行動力が生まれるからだ。

「人は満足したら、そこで終了や!」

そんなふうに考えていた。



しかし、下山は『悔しい』という感情を全否定した。

株式投資では『悔しい』という感情が、

破滅へと向かう最大の原因になる、と脅した。



大切にしていた感情を全否定され、

その時点ですでに『悔しさ』を感じていた土屋だったが・・・

下山の言葉が単なる脅しではないことは感じていた。



「下山は投資の本質を言い当てている」そんな気がしていた。





ただその説明次第では、

「いつでも下山の手法に真っ向から噛みついたる」

とも考えていた。

STORY 06

利益に飢えた敗者に捧ぐ、異次元の資金管理術と取引手法

INTRODUCTION

「完全に納得できる理由を用意されないと、信じない」
と心に決めた土屋に、落ち着き払った下山が手法の肝である
『資金管理』について静かに語り始める。

ついに、待ち望んでいた"下山の資金管理術"が解禁されようとしていた。
土屋の脳内からはアドレナリンが溢れ出し、鼓動は激しいリズムを刻み続けていた。
期待に満ち溢れていた。
たった1人、下山という男との出会いで人生が劇的に変化し始める、その瞬間の訪れを予感していた。

そして同じ部屋には、密かに鼓動を激しく打ち鳴らしているもう1人の男がいた。
この部屋の守り主であるボディガード、日高だった。
彼は今回、6人のボディガードを束ねるリーダーを務めていた。

勤務中のため、口を一文字に閉じて、気を張っている雰囲気を醸し出していたが、実は、土屋以上に心を躍らせていた。

肉体労働に少々限界を感じていた彼は"投資で稼ぐ"と密かに心に決め、下山の言葉を一言も聞き逃すまいと、本職を忘れる勢いで誰よりも集中していた。



資金の5分割、さあ詳しく説明してもらおか!


分かりました。
まず念の為に言いますが・・・大前提として、株式取引で稼ぎたかったら"資金管理"は絶対に外せないってこと忘れないでくださいね。

資金管理が正しくできていなければ、その時点でアウトです。
つまり資金管理を忘れた時点で、相場からの退場が確定するということです。


おう、分かった、分かった。
ほんで?


ほんで、資金管理を絶対にミスらないための方法として資金5分割があるということです。


なるほどな。
で、資金5分割についてこれから詳しく教えてくれるんやな?


土屋さん、焦りすぎですって。


当たり前や!!
本気やで!


いやいや、焦ったら利益を逃すどころか損失を食らうことになりますから気をつけてください。
じゃあ説明して差し上げましょう。
まず、5分割はその名の通り、資金を5分割しましょうということです。
例えば100万円の資金があるのなら、20万円ずつに分割して取引するのが、波乗り投資手法です。


まあそこまでは予想通りやな。


はい。
通常、多くのトレーダーは、100万円の資金を持っていたら、その100万円で買える銘柄無いかなあ、なんて考えがちです。
で、その100万円で買える銘柄の中で、これから株価が高騰しそうな銘柄はどれだろう、って探したりしますよね?
でも、それって完全に負けパターンなんですよね。
ですから波乗り投資法では一気に100万円を使うような真似は絶対にさせません。


なるほど。
・・・ていうかさっきから言ってる、"波乗り投資法"ってなんや?


あれ、言ってませんでした?
自分の手法、波乗り投資法っていう名前なんです。


知らんで。
初耳や。
ていうかなんで波乗りなんや?


利益を波に乗るように取っていくからじゃないですか?


いやいや、"自分関係ないんで"、みたいな他人行儀な言い方しとるけどやな(笑)
しもちゃん考えた名前やろ?


いや、自分考えてないですよ。
コピーライターの人が考えたんです。


恥ずかしがるなや(笑)
あっ、さてはしもちゃん照れとるんやろ??
一生懸命考えた名前だけにちょっと照れくさいとか。
しもちゃんそういうところあるわ。


だから自分は考えてないんですって。
正直自分はこのネーミングあんま納得してないですし。


その割にはちゃんと"波乗り投資法"って使っとるで(笑)

ええ名前やん!
堂々と波乗りを世の中に広めていったらええねん!
目指せ世界の波乗りやな!
おれも応援したるわ。


便利だから使ってるだけです・・・


ハハ、頑固やなあ。
もっとテンション上げて波乗り楽しんでいこーや(笑)
っていうか、名前の話はどっちでもええねん!
早よ資金管理の話をしてくれや。


土屋さんが話の腰を折るから話が前に進まないんですけど・・・。

続けますよ。
100万円あったら20万円ずつ分割するのはOKですよね?


おう。
1回の取引で20万円使うっちゅうことか?


正解です。
もっと正確に言うと、20万円を使って1つのポジションを持つことになります。
ただ、波乗り投資手法は"信用取引"が原則なので、レバレッジが効いて資金の3倍まで取引できるんです。


そうなんや。


つまり、1ポジションあたりの金額は・・・"元金×3÷5"という式で導くことができて、100万円の元金があるなら、100万円×3÷5で、1ポジションあたりの金額は60万円になるっていうことは分かりますか?


ん?
元金っちゅうのは最初に用意した資金のことでええんやんな?


そうですね。
株式投資始めるにあたって、最低でも30万円は用意してくださいって言いましたが、100万円じゃなくて、例えば30万円用意したとしたら、

30万円×3÷5=18万円

ということで、1ポジションあたりの金額は18万円になります。


なるほどな。
分かるで。
とにかく資金を5分割したらええっちゅうことやな。


そうです。
最初から資金を5分割することで、"一気に資金を失うリスク"が無くなるわけです。


えっ、でもな、もし5ポジション同時にエントリーしたら、資金一気に使うのと同じことちゃうんか?


そんなひねくれ者、面倒見きれないです(笑)
そんなことする人は、株式投資で稼ぐことを諦めて欲しいですね。

資金を5つに分けてエントリーする、っていう意味を全然理解していない人ですよね。
はっきり言って、この程度のルールを理解して守れないような人に株式投資をする資格は無いです。


えらい厳しいこと言うやないか。


いやいや、サラリーマンで言うと"遅刻しない"とか、それくらいのレベルのルールですよ。
これくらい守れないのであれば、もう打つ手が無いですね。


分かった分かった、そうカリカリするなや。


波乗り投資法は、世間一般的に出回る手法と比べて圧倒的に簡単です。
これくらいのルールはせめて完璧に守ってください。


了解や。
5分割ルール守ってくわ。

ほんでや、資金を5分割にするのは分かったけど、肝心なこと教えてもらってへんで。
いつエントリーしたらええんやっちゅう話や!


そうですね、じゃあエントリーの話をしますか。
土屋さんは、いつエントリーするのが正解だと思いますか?


あれやろ、やっぱ株価が暴落した時とかええんちゃう?
安く買えるわけやろ?


そうなりますよね。
でも、波乗り投資法では、それは正解であり、不正解です。


なんやねんそれ!
気持ち悪い言い方やなあ。
正解か不正解か、もっとスパッと言わんかい、スパッと!


いや、今のがそのまま答えなんですけどね。


どういうことやねん!
分かりにくいのお。


つまり・・・波乗り投資法では、いつエントリーしてもOKということです。


はあ?
そんなんで勝てるんかいな?
もしそれがほんまやったら、エントリーするときは全く何も考えんでええっちゅうことになるで!
残念やけど、普通の人間は騙せても、おれは騙されへんで。

"一切の思考停止状態で稼げます"とか広告文でよー見かけるけど、そういう謳い文句にどれだけ騙されてきたことか。
簡単には信じへんで。
あんまり適当なこと言うようやったらおれもう帰んで?


じゃ、信じなくてOKです。
お疲れ様です。
自分も帰ってゲームやりまーす。


待たんかい!
ここはおれを止めて反論するところやろ(笑)

ノリ分かってへんわ〜。


土屋さん・・・めんどくさいです。

ていうかこの定番のやりとりやめませんか?
ここまできて信じられないとか言われるとしんどいっす。


分かった分かった。
せやけど、しもちゃんがあまりに突拍子もない非常識なこと言うからやなあ。
いつエントリーしてもOKなら、世界中に成金投資家が溢れかえってるはずやろ!?


全トレーダーが波乗り投資法で取引してるなら、そうなるでしょうね。
でも波乗り投資手法で取引してない人が適当にエントリーしても、そりゃ全然勝てませんよ。


ああそういうことか・・・、エントリー後の取引方法に秘密があるっちゅうことやな。
じゃあその極意っちゅうのを教えてくれや。


はいはい、じゃあ話すんで今度こそ素直に聞いてくださいよ。


おう、分かりやすく頼むわな。


まず、波乗りの手法は"信用取引"を利用する手法なので、利益を獲得するためには、買いでエントリーして株価が上がるのを待つ、もしくは売りでエントリーして株価が下がるのを待つ、この2つの方法があるってことは理解できますか?


おう。


じゃあ例えば今15万円の株があるとします。
こんなものは、買いたいと思えば買ったら良いんです。
売りたいと思ったら売れば良いんです。


は?
そんな適当なエントリーでええんか?


はい土屋さん、さっそく素直に聞かないんだからー。
言いましたよね?
株価の動きなんて予想したって外れるんですって。
プロが何十時間かけて膨大な資料を読み漁って分析して予想したって、インサイダー取引でもしない限り、外れるときは容赦無く外れるんだから。
適当にエントリーすることに違和感を覚えるかもしれませんが、今はとにかく信じてください。


いや、その急に出てくるオネエっぽい語尾に、まずなにより違和感やわ(笑)
まあ言わんとしていることは分かるけどやなあ・・・。
じゃあ例えば・・・適当に15万円の買いでエントリーするとして、株価下がってきたらどうすんねん!?


買いでエントリーして下がったらどうするか、ってことですが・・・
含み損を抱えている状態ですよね?
そんな時は、"株価が再び上がってくるのを待つ"、それだけです。


待てるかっ!(笑)
相場が気になってしゃーないわ。


もし、絶対株価がもう一回上がってくるっちゅうことが分かってるんやったらええで!
おれも待てるわ。
ただ、株価が上がってくる保証なんて無いんやろ?
待ってる場合ちゃうやろ。

思い切ってロスカットとか何か策を講じるべきなんちゃうんか?


はい、土屋さんが言う通り、株価が上がってこない可能性も十分ありえます。
それでも・・・ロスカットは基本的にしないです。


ああ、やっぱ全然分からん。
ロスカットせんかったらどうにもならんやろ!


土屋さん。


なんや?


一つ大切な事、忘れてませんか?


大切な事・・・利益は波に乗るように取っていくっちゅうことやろ?
おれを早よ波に乗せてくれや!


土屋さん・・・頼むからふざけないでください。
なんか波乗りイジってる感じだし。


イジってへんやんけ(笑)
なんやったら、しもちゃん以上に"波乗り"を愛しとるで!


なんか嘘くさいんですよね・・・(苦笑)

ていうか、そんなことどうでも良いんですよ。
大切なことはそんなことじゃなくて、何のために5分割したんですか?っていうことなんです!


おお、資金5分割の話やな。
何のために・・・
んー、リスクヘッジやったっけ?
ん・・・!?


気付きました?
相場が逆行して含み損が出たからといって、それで終わりじゃないんですよ。
リスクヘッジのことを考えて、資金を5分割して取引してるんでしたよね?
ちゃんとリスクのことを考えた上で取引しているので、一時的に含み損が出てたって、別にどうってこと無いんです。


まだ5分の4、資金が残っとるっちゅうことを言いたいんか?


その通りです!
使ってないその資金を使って、なんとかできると思いませんか?


おお、なるほどな。
なんとかできる気がしてきたで。
ていうか、しもちゃんがそう言うなら何とかなるんやろ?


ええ、なんとかなりますね。
例えば15万円で買いでエントリーしたけど、今14万円まで株価が下がって1万円の含み損が出ているとします。
で、14万円からまた株価が上がってくると思えば買い注文を14万円でもう1つ入れれば良いですし、14万円からさらに下がると思えば売り注文を入れれば良いんです。


ほう。
でも・・・、例えば"買い"を14万円で追加したとして、その予想が外れてさらに株価が下がったらどうするんや?


まだ3つポジションが残っているでしょ?
例えば13万円あたりでもう一回"買い"を入れたらどうですか?


なるほどなあ。
"買い"をさらに追加するっちゅうやり方な。
でも株価がさらに12万円とかに下がったらどうする?


まだポジションが2つ残ってるでしょ?
12万円でもう一回"買い"を入れたらどうですか?


なるほどな、でも株価がさらに・・・。


いい加減自分で考えましょ!!
ブラマヨの漫才パクってる場合じゃないんですよ。


(笑)
そうカリカリするなや。
感情コントロールできひんトレーダーは負けトレーダーやで。


カリカリしてないですし、その言葉そのままお返ししますよ。
でも本当に、1回真剣に考えてみてください。

15万円:買い

14万円:買い

13万円:買い

12万円:買い


こんなポジションを保有している状況で、株価が11万円になったらどうします?


迷わず11万円で買いポジションや!


せっかく自満のドヤ顔で答えてくれたんですが・・・、残念ながら不正解です。


おれを恥ずかしめるなや(笑)
じゃあ何が正解やねん!


波乗り投資手法には、もう1つ大切なルールがあるのをご存知ですか?
買いポジションを5つ、もしくは売りポジションを5つ保有することは禁止するというルールです。


ご存知なわけないやろ(笑)
そんなルール、先に言えや!


いや、勘が鋭い土屋さんなら気付くかなあと思いまして。
だって5つ全部同じ方向にエントリーしちゃったらリスクヘッジにならないでしょ?

5分割している意味が無くなるとは言いませんが、かなり意味が薄くなりますよね。
相場が逆行して一方方向に動いたら終わりでしょ。


なるほどな。
勘が鋭いおれなら気づいて然るべきやったな。


素直に乗っかりすぎです(笑)
まあとにかく、迷ったときはいつも"波乗り"の基本に立ち戻ってください。


"波乗り"の基本っちゅうのは・・・なんや??


波乗り投資法の根本的な考え方、言いませんでした?

波乗り投資法はまず、"予想は必ず外れる"という大前提のもと考えられた手法だってことです。
で、不測の事態に備えてリスクヘッジが徹底的に施された手法だということです。



そのリスクヘッジのルールを具体的に言うとまず1つめが、"資金を5分割にする"、というルールです。
そして2つめが、"5つに分割した資金を全部使って同じ方向にエントリーすることは禁止"、というルールでしたね。


オッケオッケ、完璧に頭に叩き込んだで!


お願いしますよ、本当に。
すごく簡単なことしか言ってないですからね。


その時、一瞬下山は違和感を覚えた。

何かがおかしい。

何がおかしいのかは分からなかった。
言葉に言い表すことのできない何か得体の知れない初めての感覚だった。
強いて言葉で言い表すとしたら・・・"誰かに見られている"という気持ちの悪い感覚だった。

下山はこのことを土屋に言おうか迷ったが、どうせケタケタと笑われながら「絶対疲れてるだけやって(笑)」とバカにされて終わるだけだと思い、心に秘めた。

いずれにしても下山はいい加減、体力の限界だった。



土屋さん、そろそろ帰ります。


下山が有無を言わさない強い口調で言い放つ。
時計は深夜の1時を回っていた。
さすがの土屋も素直に従うことにした。



おう、長時間悪かったな。
でもまだ聞かなあかんことはたくさんあるで!!
明日も頼むで!


いや明日は無理です。
予定あるし。


えっ、しもちゃん明日どんな予定あるんや?
聞いたるわ。


明日は・・・


嘘ついたやろ(笑)


いや、ゲームという大切な予定があるので。


それ予定ちゃうからな。
ほんじゃ明日の3時な。
よろしゅう!


土屋と戦う元気も無く、下山は諦めた。
そして新宿の雑居ビルの部屋を後にした。

雑居ビルを出ると、ボディーガードが黒塗りの送迎車を用意して待っていた。
土屋も見送りのため外に出てきた。



ほなありがとうなー!
ちなみにやけど明日はどんな話聞かせてくれるんや?


満面の笑みを浮かべる土屋が質問をする。
下山は静かに頷き送迎車に乗り込んだ。

実は翌日下山は、"含み損を利益に変える、まさに魔法のような秘技"を披露するつもりでいた。
しかし、そんなことをあらかじめ伝えてしまうと、せっかちな土屋はすぐにそれを知りたがり、もう一生家路にはつけないと予感し、黙って頷いて帰ることにした。

黒塗りの送迎車に乗り込むと、車内はガランとしていた。
今まで6人いたボディガードがなぜか今日は1人の運転手だけだった。
その理由が少し気になったが、筋肉隆々のごつい男が6人もいる車に乗ることが苦痛で仕方なかった下山にとっては好都合だった。

程なくして送迎車は出発した。
車内は、下山とドライバーのボディガード2人きりだった。

静寂に包まれた車が新宿3丁目の交差点に差し掛かった時、珍しくボディガードの男が口を開いた。




日高と申します。

あっ、そうなんだ。
てか今さら自己紹介(笑)?
唐突ですね。
今日も1日ご苦労様でした。


下山様こそお疲れ様でした。
あの、ボディーガードの任務中に、こんなに気軽にお話しすることは本来であれば許されないことなのですが・・・どうしてもお伝えしたいことがありまして。

今日の土屋様とのお話を聞かせていただき、非常に感銘を受けまして。


そんなにしっかり聞いてたんだ。


はい、あのサーフィン投資法の分割するって話、なるほどなあと思って聞いてました。


波乗り投資法ね(笑)
あんたしっかり聞いてへんやろ。


あっ、失礼いたしました。
今のはガチで間違えました。
でも下山さん、関西弁もいけますね。


どんだけ土屋さんの関西弁浴びたと思ってんねん(笑)


それな(笑)




・・・・・・いや、良いんだけどさ、なんか馴れ馴れしくない?


あっ、失礼いたしました。
ついつい私も土屋さんの影響で関西弁を・・・

いや、関西弁というか、気になったのはタメ口の方だけどね。


下山にとって、日高との会話は意外と心地良かった。
日高が時々ぶっこむ無礼さが、良い具合に機能し、車内には和やかな空気が流れていた。



あの・・・


はい。


投資だけで生きていくって大変じゃないですか?


全然。
本当にノンキなもんだよ。
いつ起きてもいつ寝てもOKだし。


保有しているポジション気になりません?


それ以上にゲームか漫画に熱中してるから、全く気にならないかな(笑)


さすがですね。
明日の講義も楽しみにしています。
あっ、ガードの任務は任務としてしっかり行いますのでご安心ください。


いやいや、大丈夫大丈夫。
別に誰も狙ってこないよ。
土屋さんが大袈裟なだけで。


あっでも・・・


ん?


気をつけるに越したことはありませんので、どうぞ用心されてください。


日高は間違いなく下山に何かを伝えようとして言葉を飲み込んだ。
敏感な下山はそのことに気づいた。
そして僅かな違和感を覚えた。
でも、無駄なストレスを抱えたくなかった下山は、気づかないふりをして深くは追求しなかった。

送迎車は、下山が住む超高級マンションの入り口に静かに滑り込む。
駐車場に車を停め、日高が下山を部屋まで見送る。



では、明日も午後3時に参りますので、ゆっくりお休みください。


ありがとう。
日高さんも気をつけて帰宅してね。


それほど深い会話をしたわけでもないのに2人の間には、いつの間にか信頼関係が生まれつつあった。

一方土屋は、その夜も興奮冷めやらぬ様子でベッドの中で、思考を巡らしていた。
資金を5分割して、一方方向に全ポジションを持たない、本当にそれだけで利益を獲得することが可能なのか?

例えば、"買い"ポジションを4つ、"売り"ポジションを1つ、
そんな状態で株価が暴落したらどうなるのだろうか?


それでも、しもちゃんは利益を獲得し続けられるのだろうか?
そんな疑問が土屋の脳を揺さぶり続けていた。

波乗り投資手法の本質はまだ見えていなかった。