ニート生活に成立する荒稼ぎ投資手法2ー汚名返上ー
INTRODUCTION
そして、14時38分。
昼寝から目覚めた下山が、ついに動き出した。
下山が一体どのような行動をとるのか、その一部始終を土屋は静かに見守るつもりだったが・・・
下山は枕元に置いていたガラケーを手に取り、操作を始めた。
そして土屋は、スマホの画面にストップウォッチを表示させ、時間を計り始めた。
土屋の大きな声が、下山の部屋に響く。
やはりこの男、何事も黙って見ていられない人間だった。
ゴロゴロと寝っ転がりながら注文を出していた下山は、面倒くさそうに土屋にその画面を見せた。
土屋がストップウォッチを確認すると、その間わずか1分9秒だった。
「チャートを確認したりニュースをチェックしたり、実はそれなりにトレードに関連してやることがあって、結局は10分、20分はかかる」
そんな展開を予想していたが、その予想は完全に裏切られた。
5分どころか、たったの1分で完了してしまったそのトレードに、土屋は驚きを隠せなかった。
土屋は動揺していた。
「こんな楽に稼げてしまってはいけない・・・」目の前の現実が理解できなかった。
下山の部屋で、またしてもおっさん二人の昼寝が始まってしまった。
それにしても、土屋にとって下山がわずか1分で取引を終えてしまった事実は、あまりにもショックだった。
そして、何よりも本当に利益が出ていたことが衝撃的だった。
たった1分の間に29,000円稼げるとしたら、時給換算すると
174万円ということだ。
幅広い人脈を持つ土屋といえども、さすがに時給174万円の人間には会ったことがなかった。
"効率が良いトレード"とかその程度の次元ではなかった。
まさに
異次元の株式トレードだと痛感した。
そしてさらに、たった1分のうちに29,000円を稼ぎ出してしまったことに、特別喜びを見せない下山に対して、心の底から違和感を感じた。
「トレードをしている時は、利益をとっても嬉しくもないし、含み損が出ても悲しくない、そんなロボットのような感情が必要なのだろうか?」土屋の脳内で、様々な思いや疑問が錯綜する。
下山の昼寝に合わせて寝ようと目を閉じたが、土屋は興奮を抑えきれず全く眠れなかった。
約1時間後・・・下山が大きな伸びをしながら目覚めた。
下山は土屋の言葉をスルーし、パソコンの前に直行した。
そして早速ゲームのズーキーパーを始めた。
また対戦に負けてしまい、ブツブツ言いながら、寝起きの腕立て伏せを始めた。
とそのとき、腕立て伏せを終えた下山がガラケーを取り出した。
下山が言っていることは真実だった。
FXはあまりにも値動きが激しく、株式トレードのように
"ストップ高"、"ストップ安"という値幅の上限や下限も設定されていない。さらに
レバレッジも国内の証券会社を使用した場合
25倍、海外の証券会社を使用すると
500倍、
800倍という設定が可能になり、
完璧にルールを設定し、それを守り抜けない人間は、
あっという間に資金を奪い去られてカモにされてしまう可能性が非常に高い。そのことを誰よりも熟知している下山は、安易にFXトレードを教えることはしていなかった。
FXは、トレードの基本がマスターできていない人間が手を出して良いものではなかった。
16時28分、2人は新宿中央公園に到着した。
到着した瞬間、2人は顔を見合わせた。
公園にあったはずのゴールが無くなっていた。
残っていたのは板だけだった。
3分後・・・
土屋が1点も取れないうちに下山が3点先取し、試合はあっけなく終わってしまった。
そして息を切らしながら土屋が叫ぶ。
実は土屋はバスケ部にこそ入っていなかったが、それなりにはバスケに自信があった。
勝算が無かったわけではない。
そして実際に、スキルに関してそこまで大きい差があったわけではなかった。
しかし・・・、ただひとつ2人には決定的な違いがあった。
それは、感情面での違いだった。
『勝ちたい』という一心でゴールを目指した土屋に対して、下山は
『負けない』という一心で立ち向かった。
勝ちにこだわりすぎて感情が燃えたぎっていた土屋は、感情のコントロールも、ボールのコントロールもできていなかった。
一方で
「負けなければ勝てる」という確固たる自信を持っていた下山は感情のコントロールも、ボールのコントロールも完璧にこなしていた。
実はこの試合を通じて、下山は今まで抱えていた不安が本物であるということを確信した。
「土屋は株トレード中に暴走してしまわないだろうか?」という心配を前々からなんとなく持っていたが、その心配が的中していることを確信してしまった。
この時、下山は何も言わなかったが、折を見て土屋のマインドを矯正する必要があると思った。
土屋は約束のアイスをマンションの裏にあるスーパーで買い、下山に渡した。
そして2人は部屋に戻ってきた。
下山が風呂場に向かうと、土屋もその後を追った。
10分後・・・
ドンドンドン、ドンドンドン、土屋が風呂場のドアを叩く。
さっぱりした顔の下山がドアを開けた。
土屋は呆れていた。
限度を超えた下山の堕落ぶりに。
しかし、利益だけは今日1日で54,000円獲得していたという現実があった。
凄まじい費用対効果だった。
何が何だか分からなくなっていた。
下山の投資手法の底力を見せつけられた気がした。
土屋が何を言おうとも、54,000円という利益だけは疑いようのない事実だった。
土屋は事務所に戻った。
そして下山にお礼のメールを1通送った。
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From:土屋
To:しもちゃん
Title:今日はサンキュー!しもちゃん
いやー、今日は何も無かったな(笑)
ただただゲーム三昧な1日やったわ。
ただ、しもちゃんの生態はしっかり把握できたで。
これがプロのトレーダーの在り方なんか?
ちょっと混乱しとるわ。
「こんなにゲームばっかりしてて、ラクして稼いでたらいつかしっぺ返しくらうんちゃうか?」ってちょっと心配になるくらいラクに稼いどったなあ。
ほんまにこんなノリで稼げるんやったらマジで革命やで!!
ますます楽しみにはなってきたわ。
ほんで明日は約束してた、しもちゃんの取引履歴見せてもらうしな。
15時に日高が迎えに行くし。
ほんじゃなー^^
土屋
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22時、下山が長い眠りから目覚めて土屋からのメールを見て、テンションが下がった。
また明日もか・・・
鬱な気分になりながらメールを返信した。
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From:下山敬三
To:土屋社長
Title:Re:今日はサンキュー!土屋さん
いやー、マジでテンション下がるんですけど。
明日もですか・・・
ていうか土屋さんはまだまだ分かってないですね。
言っておきますが、自分はただのゲーム好きじゃないですよ?
好きだけでゲームやってるわけじゃないんですよ。
いや、ゲーム好きは否定しませんが・・・
「取引回数が増えれば増えるほど負ける可能性が高くなる」っていう相場の法則知ってます?
「あー、株価上がったかなあ」なんていちいち気にしてたらキリがないでしょ?
相場なんて気にしちゃダメなんですよ。
相場をたくさん見るから、無駄なエントリーや無駄な決済、ロスカットが増えるんです。
だから自分は意識的に相場を見る暇もないくらい没頭できるゲームや漫画に時間を割いているんです。
あえてのゲームですよ、あえて!
土屋さん、1日一緒にいればそれくらいのことは気づくかと思ってたのに全然気づかなかったですね・・・
残念。
まあそういうことなんで。
では。
下山
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下山からの返信を見て土屋は少し納得した。
下山が言うように、何も気づいていなかった。
確かに下山をただのゲーマーだと思っていた。
「そういうことか・・・」土屋は呟いた。
翌朝、土屋は前日に撮影したビデオを見直してみることにした。
何か見逃しているヒントがあるのではないだろうか、と期待しながら。
しかし、モニターには2人のおっさんがゲームをするシーンが永遠と映し出されるだけだった。
「おれ意外と楽しそうやなあ。」土屋は思わず口元が緩んだ。
モニターには2人の昼寝タイムが映し出されていた。
おっさん2人がただただ寝てる姿が録画されていた。
「日高ここはビデオ撮らんでええやろ(笑)」そして、下山が株トレードを行うそのシーンまで早送りしようとしたその瞬間、土屋は違和感を覚えた・・・。
・・・・
その映像を見た次の瞬間、土屋は青ざめた。
映ってはいけないモノが映っていた。
土屋は下山のマンションにすぐさま向かった。
そしてマンションのロビーでインターフォンを連打した。
「はい・・・」
下山が寝起きの声で応答した。
「しもちゃん、おれや!部屋に入れてくれ!早く!」オートロックが解除され、土屋は下山の部屋まで猛ダッシュで到着した。
玄関のドアを叩いた。
「しもちゃん、おれや!開けてくれ!」玄関の鍵を下山が開けると、そこには顔面蒼白の土屋が立っていた。
「しもちゃん、かなりヤバいことになったかもしれん。
今すぐこの部屋を出てくれ。」
ついに下山のリアルな投資スタイルが明かされた。
1日1分で29,000円の利益確定。
「詐欺だ」と疑われても仕方ないようなその驚異のトレードに土屋は驚愕した。
しかし、投資の本質を理解すれば下山のトレードスタイルがいかに理にかなっているか理解することは可能であり、土屋自身もその点に気付きつつあった。
そしていよいよ下山の取引履歴が公開されようとしていた。しかし・・・、順調に学びを続ける土屋の前に、
予想だにしない魔の手が差し迫っていた。