暴かれるロスカット不要の唯我独尊トレード ー『含み損を利益に転換する秘技』の真相ー
INTRODUCTION
下山が、これまで本当に限られた信頼できる一部の人間だけにしか教えなかった、
そして全トレーダーが喉から手が出るほど欲しいと願う
『含み損を利益に変える、強烈な技術』が、満を持して土屋に伝授される。
下山の帰宅後、しばらくしてから1通のメールが土屋の元に届いた。
そのメールは下山なりの配慮だった。
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From:下山敬三
To:土屋社長
Title:【波乗り投資手法のおさらい】土屋さん
今日はどうも。
多分色々とモヤモヤしている部分があると思いますので、波乗り投資手法について、おさらいを送っておきます。
まず資金5分割について。
文字通り、資金を5分割して下さい。
これは資金管理のためです。
5つに分割することによって、全資金を一瞬にして失うリスクが無くなります。
まあこれは簡単に理解できましたよね?
あと、エントリーについては今日お伝えした通り、適当でOKです。
ただ、1つルールがありました。
"買い"のポジションを5つ保有したり、"売り"のポジションを5つ保有することは禁止です。一方方向に全資金を投入してはいけません。
例えば、"買い"のポジションを5つ保有している時、相場が暴落したら取り返しのつかない状況に陥ってしまいまう可能性がありますので。
ですから許されるのは例えば、
【"買い"×4・"売り"×1】とか
【"売り"×4・"買い"×1】とか。こういったポジションバランスまでです。
必ず1つは反対売買を入れましょう。
以上です!
ではおやすみなさい。
追伸:
明日もっとすごい裏技教えます。下山敬三
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下山はメールを送って眠りについた・・・はずだったが、どうもうまく寝付けなかった。
そこでオンラインゲームを始めた。
こういう瞬間、いつも思う。
「株式投資があって良かった」と。
時間にも曜日にも一切縛られることなく、いつ寝ても、いつ起きても許される人生を与えてくれた株式投資に感謝した。
世間が、"ゴールデンウィークだ、お盆休みだ"、と騒いでいる中、年中夏休み状態の人生を心の底から満喫していた。
一度きりの人生、自分のために全ての時間を自由に使えることが何よりの喜びだった。
と言っても、下山の場合、そんな生活を6年以上も送り続けているので、もはや喜びを感じるという次元を超え、その状態が当たり前になり、例えば誰かに手法を教えたり、自分以外の誰かに価値を与えることにも生きがいを感じ始めていた。
そして、そんな下山からすれば
「人生を丸ごと休日にする方法があるのに、なぜ人はそれを掴み取ろうとしないのか・・・」と、世間に対するもどかしさも感じていた。
もちろん、会社に勤めることを否定するつもりは全くない。
仕事を楽しんでいるサラリーマンがいることも知っている。
しかし、「しんどい、辞めたい、もっとラクをしたい」と思いながらも、「サラリーマンを辞めても生きていける自信が無い」という理由で多くのサラリーマンが現状を変えられずにいる様を見ると、心の底から不憫に思う。
自分の気持ちを押し殺し、大嫌いな上司に頭を下げる人生に嫌気が差し、会社を辞めたいと思いながらもズルズルと会社で働き続けるサラリーマンを見ていると、哀れに思う。
「あまりにも人生がもったいない」と。
そして何より、そういった人が下山の手法を知った時に「そもそもそんな手法で勝てるわけがない」と言って素通りしていく様を、残念に思っていた。
もちろん下山は「波乗り投資法で取引してください!」なんてことは微塵も思わない。
「この手法を使いたいと思う人だけが使えば良い」と思っていた。
他人の人生に口出しする気も一切無かった。
ただ、
「一歩踏み出せば、新しい人生が簡単に手に入るのに、なぜ・・・」という気持ちがあった。
そんなことを考えながらゲームをしていたら、土屋から返信メールが届いた。
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From:土屋
To:しもちゃん
Title:【波乗り投資手法のおさらい】しもちゃん
メールサンキュー!!!
しもちゃんせんせーの想像通り、ちょうどモヤモヤしとったわ。
5分割の話はええねんけど、エントリーが適当でええっちゅう話がどうもまだ腑に落ちひんわ。
そんなんでほんまに勝てるんかいな?
いや、確かに言っとることは分かるんやで。
でもやっぱほんまにそれでいけるんかいな・・・っちゅう不安があるわ。
まあそんなこんなで、まだまだ聞きたいことだらけや!
明日またせんせーの講義聞かせてくれや!
てか、さすがしもちゃん!!!!!!!!
まだ裏技が残っとるんやな!!!!
めっちゃ楽しみにしとるで!!!!
ほんじゃなー(^^)/
土屋
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土屋の表情がありありと浮かぶメールだった。
そのメールを確認した後、ようやく下山は深い眠りに落ちた。
・・・翌日PM3:00
ピンポーン下山の部屋に、容赦なくチャイムが鳴り響いた。
しかし下山はゲームに熱中するあまり気付かない。
ピンポーン2回目のチャイムが鳴る。
それでも下山は気付かない。
すると今度は、携帯電話が鳴り響く。
着信音は下山が大好きなゲームのテーマ曲だった。
そこでようやく下山は気付く。
上の空で携帯電話の画面を見ると、知らない番号からの着信だった。
下山が応答する。
下山の意識はまだゲームの世界にあった。
なぜボディーガードが自分に電話をしてきたのか、そしてなぜ彼がマンションに来ているのか状況が掴めていなかった。
下山はマンションのエントランスのオートロックを解除した。
程なくして玄関のチャイムが鳴り、日高が現れた。
ボディーガードの日高が部屋にあがると真っ先に目に飛び込んできたものは、TV画面いっぱいに映し出されたゲームのキャラクターだった。
なぜか日高もゲームに参加することになった。
そして日高もいつの間にかゲームに熱中していた。
しかし・・・ふと時計を見ると4時になっていた。
日高は、喉まで出かかった「急いでください!」という言葉をなんとか飲み込んだ。
日高の中に、自分自身も楽しい時間を過ごしてしまったという罪悪感があった・・・
ようやく下山の準備が整い、下山と日高は土屋が待つ新宿のビルへ向かった。
到着したのは夕方の5時近くだった。
日高は、前日とは異なる部屋に下山を案内した。
窓のブラインドが半分ほど降ろされた、少し薄暗いその部屋の中央に、パソコンに向かう土屋の姿があった。
思わずゲームをしていたことを口走ってしまった日高が、しまったという表情を見せる。
嘘をつけない男だった。
一瞬にして下山の目つきが変わる。
何だかんだ言って教えるときはいつも真剣そのものだった。
相変わらず土屋のペースだった。
そして下山は結局、翌日もまた土屋と会うことになった。
前日同様、下山は日高が運転する車に乗り込み帰路についた。
車内は2人きりだった。
下山はひとつだけ、ずっと気になっていたことがあった。
最初6人いたボディーガードが、日高1人になっていたことだ。
そのことを思い切って聞いてみた。
意を決した表情をした日高が、静かに話し始める。
下山は、盗聴器の事件について、特別気にしていなかった。
ただ、影でコソコソされるのは気持ち悪かった。
得体の知れない誰かが近くにいることに対し、心の底から嫌悪感を抱いた。
確かに、今後生涯にわたり、安定的に稼げる方法があるとしたら、盗聴器を使ってでもそれを知りたいと思う人間が存在することは納得できた。
適当にエントリーして、ロスカットせずに勝てる投資手法など、波乗り投資手法以外にこの世に存在しない。世間に出回る投資手法とは異次元の価値をもっていた。
しかし、その価値に気付けるぐらいの思考力を持ち合わせている人間ならば、正々堂々と下山に教えを乞うことが正しいことくらい理解して然るべきだ、と下山は感じた。
そして、情報を不正に盗んで稼いでやろうという、意地汚いマインドを持ち合わせている人間が、波乗り投資手法を使っても相場で勝ち続けられるわけがなかった。
だから下山は、盗聴器を仕掛けた人間を心の底から哀れに思った。
対価として得られるものが一切無い悪事を働く人間に、無常観を覚えた。
波乗り投資手法の具体的な取引方法に加え、
『含み損を利益に変える驚異の相殺決済術』が新たに公開された。
土屋は、シンプルだがその圧倒的に理にかなった手法を、今すぐに試したくて仕方なかったが、その気持ちをなんとか抑えていた。
一見、猪突猛進の勢いで物事を進めるように見える土屋は、実は慎重に物事を推し進める人間だった。
「段取りが命」そんな考えのもと、下山から全ての情報を得て、徹底的に検証した上で取引を行うことで、失敗して資金を失う可能性を限りなくゼロに近づけようとしていた。
そのため、下山のリアルな取引履歴を納得できるまで見尽くし、利益が出ることを徹底的に精査した上で実際に取引を始める、ということを心に決めていた。
そして自分が利益を出すことができた時点で、仲間にも情報を提供しようと考えていた。
ただ、一方で下山の心情は穏やかではなかった。
下山にとって履歴を見せることは全く問題無かったが、そこまでしないとしっかり信用してもらえていない雰囲気が面倒だった。
「そこまでしないとしないと信用できないくらいならやめておけばいいのに・・・」という本心が見え隠れしていた。
しかし、物事は終始土屋のペースで進み、
下山の取引履歴が丸裸にされようとしていた。